こんなにも違う「事業用賃貸」と「住居用賃貸」の原状回復
"事業用賃貸(オフィス・店舗)"と"住宅用賃貸"の原状回復義務の違い
原状回復をめぐる過去の敷金返金訴訟の傾向をまとめてみると、事業用賃貸(オフィス・店舗)と住宅用賃貸では原状回復義務に大きな違いがあることが分かります。
これは、主に個人契約を行う住宅用賃貸では消費者保護の観点から"消費者契約法"が適用されることが要因です。また、営利目的での利用が主となる事業用賃貸では、多数の人員の出入りをはじめ、通常使用を超える損耗が想定されることから、経年劣化による自然損耗とは認められず、原状回復特約が広く認められていると言っても過言ではありません。
住宅用賃貸では前記したとおり"消費者契約法"により賃借人の経年劣化等による通常損耗は原状回復義務にあたらないとされていますが、事業用賃貸の場合、消費者契約法が適用されず、原状回復義務の範囲が全く異なってきます。
一例として過去の判例と判決理由をみてみると、
と判決されています。
上記の判断は、賃借人に原状回復義務があるとしての判断であることが分かります。
その他の判決を見ても「賃借人は賃借当時の状態にまで原状回復して返還しなければならないと」とする判決が見られ、「原状回復の義務を負わせる特約を定めることは、経済的にも合理的である」とされています。
その判決理由は以下の通りです。
一般的に事業所用賃貸では、スケルトン状態で賃貸した後、利用者の使い勝手に合せ間仕切りや電気配線工事が行われ、中には躯体部分に関わる設備工事も多数発生します。
また、事業者である賃貸人に対し、賃借人も事業者であることから、力関係に大きな差はないと考えられるため、契約内容に基づき原状回復の義務を負うのが妥当であると考えられています。
これにより事業用賃貸では、原状回復に関する特約が大きな意味を持つこととなり、特約に明記することにより、経年劣化とされる部分にまで原状回復義務を負わせることができるとされています。
原状回復特約の効力をめぐる裁判例の傾向
区分 |
傾向 |
理由 |
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住宅用賃貸 |
消費者契約法に倣い、原状回復特約の効力を制限・否定する傾向にある |
強い立場にいる賃貸人に対し、弱い立場にある賃借人(消費者)を保護する観点が根強い |
事業用賃貸 |
原状回復特約の効力を認め、通常損耗を超過する原状回復義務まで肯定する傾向にある |
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事業用賃貸の場合、原状回復費用は賃借人の負担とするのが相当である
事業用賃貸(オフィス・店舗)の場合、原状回復特約は効力がある